令和2年6月からハラスメント対策が強化されましたが、公務員のハラスメントは、依然としてあります。まずは相談の壁があります。相談手段を誤ると今後の公務員人生に影響します。
次に、処分にまでの壁があります。処分があったとしても公務員の身分は守られているので免職に至ることは難しく、行為者は居座ります。
ではどうしたら改善できるのでしょうか?
根拠法令を紹介しながら、ケース別の具体的な対策を、紹介します。
私は、人事側の立場と、相談者側の立場の両方を経験しています。
公務員のハラスメントと対策の実態
公務員は身分が守られていること、上司の権限が強いことから、特に、上司ー部下間でハラスメントが起こりやすいです。あらゆる行為に上司の決裁が必要になるため、上下関係がはっきりします。
ハラスメント防止対策のため、幹部職員にはハラスメント研修をします。ある程度の効果はあると思いますが、基本的に、加害者(行為者)は、当事者意識がなく、むしろ驚くほどに「部下を思っての行為」「部下の成長のため」と考えています。もちろん、被害者は、そんな風には受け止めません。
加害者に、その上の上司が指導しても、残念ながら考えを改めることは難しい実態があります。
公務員のハラスメントが表面化されにくい理由
公務員のハラスメントがニュースになるのは、氷山の一角で、表面化できなかった潜在的な問題が多くあります。
加害者(行為者)は、上司が見えないようにハラスメント行為を行う
一般職員から見て明らかなハラスメント者も、上司は注意深く見守っていても、気づかれないケースが多いです。
若年層からすると、「上司や幹部は何を見てるんだ」という意見が出ますが、加害者に対する見方は、上の評価と下の評価で、180度変わることもあったりします。
加害者(行為者)は、ほぼ自覚は無い
明らかなハラスメント行為だと、被害者も第三者も思うようなことでも、加害者(行為者)は、心から良かれと思っていることが多いです。ある意味で人間味のある方が陥りやすい。
・後輩の成長を心から願って
・自分もそうやって成長したから
・しっかりフォローもしている
上司に最もらしい説明をするため、表面化されづらいです。
ハラスメントの事実確認(職場ヒアリング)を、被害者が望まない
ハラスメントは、一方の言い分だけで決めることはできません。加害者に事実確認をするも、すべてを認めるケースはほぼなく、否認します。そのため、職場ヒアリングをして事実確認をすることになります。
この結果、被害行為が職場内に広まることになってしまいます。
被害行為を抽象的な言葉に変える等の対策をすると、事実確認が難しくなります。
ヒアリングを受けた職員に秘密保持を依頼しても、言うことがあるため、職場内に留まらないことも考えられます。
一番大切なことは、被害者を守ることにあります。
事実確認により被害行為が広まることを被害者が望まない場合は、無念ながら処分に至ることはなく、表面化されません。
ハラスメント行為の事実確認できなかった(周囲の職員が証言しない)
また、周囲の職員も報復を恐れて、報告せずに問題化しなかったり、事実確認時に証言しないこともあります。安定志向が強いため、長い公務員人生を考えると、波風を起こさないのが無難と考える職員が多いのでしょうか。
被害者が訴えてるけど、事実確認ができずに終わるケースもあるのが実態です。
公務員のハラスメント相談窓口、相談体制 一覧
ハラスメント相談は、共済組合の相談窓口等があります。
具体的な対策を望む場合は、次のとおりです。あなたの置かれた状況により、相手や手段を変えましょう。(事例を後述します)
- 上司
- 上司の上司
- 本部のハラスメント相談窓口
- 人事管轄の部署
- 厚生労働省のハラスメント相談窓口
ハラスメント相談後。事実確認の実態(時間がかかる)
ハラスメント相談や、ハラスメント通報があった場合は、内容の精査を行います。
一方の言い分だけを聞くわけにもいかないため、事実確認をします。
加害者(行為者)は、基本的にすべて認めることはほぼなく、否認します。
事実確認のため、職場ヒアリングを行うことになります。
一部の職員のみにヒアリングをした場合は、どちらかに有利な立場の人選をしたと勘繰られるため、基本的には全ての職員に事実確認をすることになります。
被害者とは、被害行為が広まるリスク等を踏まえ、今後の方針について確認します。
事実確認等の方針を固めて、任命権者(首長)に報告をした後、事実確認のため、職場ヒアリングに動きます(決裁等もあるので時間がかかる)
その後、職場内ヒアリングを実施し、これまで把握しているハラスメント行為の事実確認、その他行為の確認、相反する意見が無いかを確認していきます。
ハラスメントの懲戒処分の指針(人事院)
人事院は、次のとおりハラスメントに対する処分指針を出しています。各自治体もこれにならって指針を決めています。
(15) パワー・ハラスメント
ア パワー・ハラスメント(人事院規則10―16(パワー・ハラスメントの防止等)第2条に規定するパワー・ハラスメントをいう。以下同じ。)を行ったことにより、相手に著しい精神的又は身体的な苦痛を与えた職員は、停職、減給又は戒告とする。
イ パワー・ハラスメントを行ったことについて指導、注意等を受けたにもかかわらず、パワー・ハラスメントを繰り返した職員は、停職又は減給とする。
ウ パワー・ハラスメントを行ったことにより、相手を強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹(り)患させた職員は、免職、停職又は減給とする。(注)処分を行うに際しては、具体的な行為の態様、悪質性等も情状として考慮の上判断するものとする。
人事院 懲戒処分の指針について
公務員でハラスメントにより免職になった事例は、見つかりませんでした。
重い処分でも停職6か月です。メンタル疾患にり患させた事例
1.被処分者
瀬戸市職員の非違行為にかかわる処分について
消防本部 係長級職員 44歳 男性
2.処分内容
停職(6か月)
3.処分理由
⑴ 事案の概要
本市消防職員が、部下職員計8名に対してパワーハラスメント行為を繰り返し、うち1名にメンタル疾患を発症させたほか、他の職員に対しても、身体的・精神的な苦痛を与えたもの。
⑵ 根拠法令
地方公務員法第29条第1項第3号(全体の奉仕者たるにふさわしくない非行)
停職でも、自己都合で退職するケースはありますが、そうでなければ、いずれ復職します。
ハラスメント行為者は、上司が多いです。積み上げた実績や人脈もあります。今更転職もできないので、退職することは少ないでしょう。
結局、被害者が耐え切れず退職をするケースが後を絶ちません。
被害を受けた側なのに、また更なる苦労をして身を引かなければならないのが、実態です。
ハラスメント相談のおすすめ
まずは、これまでの被害行為(日時、場所、状況、同席者等)を書き留める。目撃者を味方にする。
組織外の人(信頼できる親族、友人)や団体に自分の思いを話す。
上司が信頼できるならば、上司や、上司の上司に相談する。
難しい場合は、
・あなたが、公務員人生を今後も続けたいかどうか?
・ハラスメント行為が公になっても構わない自己犠牲をもって、加害者を処分したいかどうか?
この点を考えましょう。
上司や所属長に相談なく、上の組織に報告すると、結果、上の組織から所属長に伝わるので、いい思いはしません。今後やりづらくなるでしょう。公務員は異動があるとはいえ、どこかで関わりが出てきます。
匿名の通報という手段もあります。匿名通報でも人事管轄課は動きます。時間はかかりますが、事実確認の中で複数人がハラスメント行為を証言した場合は、具体的に処分まで動きます。
公務員のハラスメント実態としては、減少傾向にあるも、依然としてあります。
加害者も、身分が保障されている公務員なので、想定しているよりも重い処分にはならない実情があります。
唯一の救いは、職場異動があることです。環境を変えてもらえると、驚くほど心身が回復します。他方で、環境を変えても、根強いダメージが残っている場合は、被害者が退職する事態になってしまいます。
ハラスメントやハラスメント対策については、この本がためになりました。本書の著者は長年にわたり、人事院で、公務員のハラスメント問題に取り組んだ方です。参考になれば幸いです。